認知症のスティグマとどう向き合うか 

佐々木理事 2022年9月11日 Facebook記事より

「認知症の患者としてではなく、一人の個人として」

ドイツとオランダ、いずれの国でも、このスタンスで認知症の人に向き合おうとしていた。

しかし実際には、認知症当事者自身や専門職も含め、認知症に対する偏見は根強い。

これは日本においても同様だ。

この課題に、彼らはどう取り組もうとしているのか。

面白いと思ったのが、ブレーメン市の「タンデム(Tandems)」。

タンデムとは「二人乗り」という意味だが、これは認知症の人と「パートナー」が、二人一組で活動する、というもの。

カフェに行ったり、映画館や博物館に出かけたり、一人では不安、自信がない、そんな認知症の人でも、安心して外出や社会活動を楽しめる。

「何かをやらせる」のではなく、一人の個人として、お互いにリスペクトし合いながら、二人で一緒にやる、一緒に楽しむ。

なお、市内の美術館・博物館・劇場・市民学校など、タンデムを通じた活動であれば、一人分の料金で利用できるようになっている。

美術館や博物館の楽しみ方にも工夫がされている。

たくさんのものをどんどん見ていくというよりも、気に入った作品を五感でじっくりと味わう、という楽しみ方もできる。

たとえば美術館では、絵(静物画)のモチーフとなった素材を学芸員が準備、実際に手で触りながら、作品を鑑賞するなど、認知症の人の個性や感覚特性に合わせた楽しみ方ができるよう、配慮がされている。

認知症の人のニーズはそれぞれ違うし、残存機能も違う。

それをしっかりと把握した上で、過剰な負担をかけないことも大切。

それを学ぶために、タンデムのパートナーは全員が研修を受ける。認知症の人を尊重、共感できるように。どういう状況にあるのかということを理解してから関わる。

認知症を持つ人たちのニーズに合わせられること、リズムを見つけられること、感情のフィードバック(気持ちを合わせられること)も重要になる。

認知症の人だけを特定の場所に集めて、というのではなく、普通の空間で、一般市民と一緒に。

このプログラムの目的は「インテグレーション(統合)」、つまり、認知症の人は私たちのコミュニティの一部、そして認知症は私たちの一部、ということを地域社会全体が学ぶことにある。

タンデムのパートナーの多くは家族以外のボランティア。

ブレーメン市には認知症のケアを受けている人が1800人いるとのことだが、うち140人程度がタンデムで活発に活動をしているという。

これは特に認知症当事者のうち独居や核家族化などで日々の生活への家族の関わりが少ない人にとっては、普通の社会活動をするための重要な手段になりうる。

また公的な社会福祉サービスでカバーされないニーズに対しても、とても効果的なのではないかと感じた。

同時にタンデムのパートナーにとっても有意義な機会になる。研修のみならず、認知症の人と実際に活動を共にすることで、認知症をより深く知ることができる。ボランティアも独居の人や高齢者が少なくないとのことだが、ボランティア自身にとってもコミュニティの中に居場所や役割を持つことにつながる。

また、タンデムで活動する二人と関わった一般市民も、認知症に対するネガティブなイメージが変わっていくかもしれない。

もしかすると、二人のうち一人が認知症である、ということにも気づかないのかもしれないが。

いずれにしても、家族と医療介護専門職だけで生活をみようとしないこと、「よりよいケアを提供する」というよりは「よりよい生活を実現する」ことを目指していること、普通の市民として普通の場所で活動することで、パートナーとして関わるボランティアのみならず、市民全体への自然な社会教育につながる可能性があること、など、可塑性の大きな取り組みだと感じた。

日本では「認知症サポーター」を大量育成しているが、実際に認知症の人にきちんと関われる人はどれくらいいるのだろうか。

そして、認知症の人が必要としているのはそもそも「サポーター」なのだろうか。

たとえ認知症があったとしても、一人の個人として生活が楽しめること、社会に参加できること。

そのためには、そんな生活や参加のプロセスを共有しうる「パートナー」が必要だ。

これから認知症になる僕たちには「パートナー」を見つけるための準備期間がある(かもしれない)。

しかし、パートナーを持たずに認知症になった人たちにとって、このようなイニシアティブをとってくれる仕組みは重要な選択肢の1つなのではないかと思った。

●認知症の人が、一市民として生活が継続できること

認知症になると、人はできないこと(およびそれを周囲に知られること)を恐れ、引きこもり、抑うつ気味になる。

しかし、認知症になってもすべてが失われるわけではない。そして、できないことがあったとしても、それは対処可能だということを学ぶ必要がある。

そう話してくれたのは看護師のペトラ・ショルツさん。

彼女は、ブレーメン市の財団で認知症ケアプログラムの開発と専門職への教育研修を担っている。

彼女が今、取り組んでいるのが、一般市民(認知症の人を含む)のため文化的プログラム。

その名も「人生の喜びは忘れられないもの」。

上記の「タンデム」も彼女が関わるプログラムの1つだ。

どのような要素が認知症にポジティブに働くか。

① 社会的コンタクトを維持・拡大すること:これがもっとも大切/共同体の一員であるという意識、社会の中で役割を担うこと、一生涯学び続けること

② 身体機能を維持すること:筋力・持久力・バランス機能など

③ 個人の強みを見つけること:アート活動、音楽やダンスを通じて自らを表現する機会を作ること

④ 幸せに生きること:そのためには「喜び」、「リラックス」、「なぐさめ」、「楽しみ」この4つが大切

この考え方に基づいてプログラムを作った。

特にこれらの要素を実践するためにはネットワークが重要になる。博物館・美術館・学校・福祉団体など、市内のさまざな組織・団体とともに活動に取り組んでいる。

タンデム以外にもさまざまなプログラムがある。

いずれもそのコアは一般市民に対する教育・啓発だが、同時に認知症になってもアクティブでいられるということも重視している。

プログラムを通じて、診断を受けた人、家族間での交流、「一人じゃない」という連帯の気持ちを拡げていく。

例えば、音楽とダンス。これは誰にとっても身体機能を維持し、精神面にもよい効果がある。

認知症の人も一緒に音楽に合わせて身体を動かすことで、その人の表現性を知ることができる。また、車椅子などで立てない人も身体表現ができる。

自転車に乗って出かけたり(自転車クラブのボランティアが認知症の人でも安全に自転車に乗れるよう支援してくれている)、動物と触れ合ったり、ナチュラリストといっしょに草や花をいっしょに触ったり、においをかいだり、食べたり。

これらの五感を使った活動を通じて、これまで話をしなかった人が、話始めたりすることもある。

大切なのは「認知症患者をケアすること」ではなく、「人を見ること」「人として関わること」

社会とのつながりの中で、安心して暮らし続けられる環境を創ることこそが、究極のケア。

簡単なことではないが、それを実現しようと意欲的な取り組みが行われていることが本当に素晴らしいと思った。

ちょっとまたあとで書き足します。

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