4人のビジョナリーリーダーとともに可視化する「10年後の地域医療のカタチ」 在宅医療カレッジ×医療法人社団悠翔会 2022年末特別企画シンポジウム

佐々木理事 2022年11月26日 Facebook記事より

あれも足りない、これも足りないのが日本の医療介護の現場。しかし、堀田聰子さんの表現を借りれば、そこには「もったいない」「もちぐされ」がたくさんある。

日本の医師数は先進国の中では相対的に少ない。しかし、患者の外来受診頻度は断トツの世界2位(1位韓国とは僅差)。

したがって、一人あたりの診療時間は当然短くなり、患者満足度も低い。

また、日本の地域医療の担い手である診療所の医師たちは徐々に高齢化、現在、平均で60歳を超えている。

地域によっては70歳を超えているところも。夜間往診や発熱外来を頼みにくい。また、離島や中山間地を中心に、医師不在地域も増えてきている。超高齢の医師が一人で支えている地域も少なくなく、近い将来、医療機関のない基礎自治体なども出てくるかもしれない。ここに医師の働き方改革が加わる。これまでは医師の長時間労働でなんとか支えていた医療現場が、シフトを埋めきれず、施設基準を満たせないことにより運営困難に陥る医療機関も増えてくるのではないか。

ーーーーー一方、看護師は先進国の中では相対的に多い。

保健師・助産師も含めれば人口比で最多レベルだ。

しかし、看護師の機能は大きく制限されている。

医師の指示がなければ動けない。薬剤のストックなども(浣腸やワセリンなどごく一部を除き)許されていない。しかし、例えば在宅患者に最初に対応するのは看護師だ。

医師の指示があっても、薬や点滴がなければ、結局、医療的対応はできない。医療機関に必要物品を受け取りに行き、それから患者の自宅を再度訪問する必要がある。

もちろん、薬局に連絡をして急配してもらうという選択肢もある。しかし、24時間迅速に薬剤を届ける体制を整えている薬局はごくわずかだ。訪問服薬指導に対応しない薬局も多い。

結局、しわ寄せを受けるのは患者だ。

日本看護協会の調査によると、薬剤が手元になく、医師がすぐに対応できないことで、患者の状態が悪化したり、結局、入院を選択せざるを得ないという状況がかなりの頻度で生じている。

ーーーーー薬剤師も実はかなり多い。

 先進国の中では人口あたり断トツの1位。

 日本では、地域医療を担う診療所の医師が11万人に対し、薬局で働く薬剤師は19万人。医師の約2倍、地域で活動していることになる。

薬局の数は全国に6万件。実はコンビニの数よりも多い。

そこには、6年間の医学・薬学教育と臨床研修を経た薬剤師が常駐している。

いうまでもなく、薬剤師は薬効薬理や薬物療法に関しては医師よりも専門性が高い。海外では、薬剤師は軽症疾患(OTC医薬品によるセルフメディケーション支援)・慢性疾患(リフィル処方箋による薬物療法の支援)に主体的に参加する。

その業務にワクチン接種や地域でのヘルスプロモーションが含まれる国もある。

薬局の薬剤師は、本来、地域のプライマリケアを担う臨床家なのだ。

日本では、薬剤師の中核業務は「調剤」だ。海外では調剤マシンや補助職員によってそのほとんどが行われる調剤業務だが、日本では薬剤師の資格がなければ原則できないことになっている。

結果、薬の分包や監査などの対物業務に時間をとられ、肝心の対人業務に時間が確保できない。

高齢者の大量の残薬、ポリファーマシーなどの問題は、薬剤師が対人業務をきちんとおこなわれる状況にあれば、その多くが防げるのではないか? 

これらの対人業務の時間を確保するために、対物業務の効率化に本気で取り組むべきではないか。調剤業務が薬剤師の専権業務であることは理解するが、調剤だけなら近い将来、機械にとって変わられる。本来の臨床家としての機能を発揮すべきではないか。

ーーーーー地域医療を担う医師が相対的に少ないこと、医師の高齢化が進んでいること、それを補充するめどが立たないことなどを考えると、特に、医師の配置が希薄な地域においては、相対的に潤沢な看護師・薬剤師が医師とのタスクシェアの中で、地域医療を守れる体制を作っていくことは、とても重要なのではないか。

そのためには、看護師の能力を縛る規制を、地域によっては緩和し、ステーションへの薬剤配備など、フレキシブルで効率的な対応が可能な運営体制を確保する必要がある。

また、薬剤師も、軽症疾患や慢性疾患に対するプライマリケア、在宅患者に対する訪問服薬指導や緊急配薬などに対応できる体制を確保できれば、医師の負担を大きく軽減できる。

もちろん、医行為には責任を伴う。また、医師と安全にタスクシェアしうるスキルがあることを認証する仕組みやそのための教育システムも必要だ。しかし、これらを進めていかなければ、不利益を被るのは患者だけではない。

ーーーーー今日のシンポジウム。

小坂鎮太郎さん、山岸暁美さん、成瀬道起さん、堀田聰子さんの4人の話を聞いて、もやもやとしていた課題意識がクリアになった。

大きな障壁をボトムアップで変えていくことは難しい。

しかし、現場からでしかできないこともある。それに気づくことができたのも収穫だった。

自分の中で見つけた2つのキーワード。

① 地域医療=地域ごと医療「地域」などという地域は存在しない。それぞれの地域ごとに地域は異なる。したがって、それぞれの地域で求められる医療も、それぞれ異なる。地域にある資源をどう組み合わせるのか、地域住民のニーズは何なのか。

もちろん標準的存在としての「地域住民」という住民は存在しない。個々の住民はどんな人たちなのか。まずはそれを知ることから始める必要がある。そのうえで、あるべき医療やケアのかたちや、専門職としてのかかわりも見えてくるはずだ。

② 専門性に閉じない専門職ごとに自分の専門性を定義することは大切だ。しかし、専門職として高めようとすることで、逆にそれぞれが個としてのアイデンティティを守ることを目的化してしまう危険はないか。

地域のニーズに対して謙虚であること。自分たちが何者なのかを定義するのは自分たちであるべきなのか。対話を通じて関係性を一度リセットしてみること。医療者と患者の関係、異なる専門職間の関係、それぞれの自己定義を一度ゼロから考え直してみる。

新しい医療観を獲得し、多職種が連携できれば、そして住民自身の力も引き出すことができれば、その地域の「もったいない」「もちぐされ」を有効活用できる。異なる職種が連携するためには、やはり規範的統合(「ケアのものさし」の共有)が前提として重要だ。

対話を重ねながら、大事な部分を共有していく。そして、目の前のその人のニーズに、地域のニーズに応えるために、フレキシブルな協働を可能にするための制度設計(規制緩和・報酬体系)、健康・医療に対する価値観をはぐくむための教育も重要だ。

ーーーーー手段としての「かかりつけ医」の制度化はとても重要だと思う。

しかし、その目的は、健康で長く過ごせること。

そして病気や障害になっても「健康な生活・人生」が送れること。

そのためには、かかりつけ医の制度化だけではたぶん足りない。かかりつけ看護師、かかりつけ薬剤師、そして専門職でなくても、その人のくらしにちょっと関わり、その人たちが幸せに生きていくためのヒントを一緒に探していく。そんな存在もあっていい。

10年後の地域医療のカタチ。大都市部や離島・人口減少地域など、多様なフィールドに診療拠点を展開する悠翔会。

日々の診療そのものを、それぞれの地域の幸せを発掘するための共同作業のプロセスにできるか。新しいチャレンジのテーマをいただいた。貴重な知見を共有くださった4人のパネリストの先生方、総括いただいた町学長、そして参加者のみなさま。本当にありがとうございました。そして悠翔会メンバー&運営チームのみなさん。本日はお疲れ様でした!

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