施設ではなく「すまい」、ケアではなく「普通のくらし」を目指す 

佐々木理事 2022年9月7日 Facebook記事より

最期まで人が人として生きていくとはどういうことか。それを支えるために必要なものは何なのか。

「よりよいケアを提供する」という議論をする前に、向き合わなければならないテーマを改めて突き付けられた。

3年ぶりのドイツ。

訪問したのは人口60万人のブレーメン市。

そこで主に高齢者の住宅供給を担うのが、市の外郭団体 BREMER HEIMSTIFTUNG財団。市内に32の高齢者住宅を運営している。

半分は古典的介護施設(老人ホーム)。

要介護度の高い人の中には自宅の生活継続が困難になるため一定のニーズはあるが、最近15年は新しい老人ホームは作っていないとのこと。近年は、新しい概念を意識した住宅を提供している。

施設ではなく「すまい」であること。

近隣住民も使用できる施設を併設し、自然な多世代交流を促すこと。

できるだけ自立した生活が継続できること(仕事の継続、近隣の助け合いなど)。

特に介護職不足はドイツにおいても課題になっており、これは生活の質を高めるというだけではなく、介護予防や、専門職に依存しないケアにも期待しているとのこと。

そんなBH財団が運営に関与する2つの複合施設を見学した。

古い風車を中心に拡がるStiftungdorf Arberger Muhle

ここは2つの高齢者住宅(あわせて52室)と共用施設からなる。

住宅は50~130㎡とバリエーションが豊富。人気の60~70㎡の部屋(日本の高齢者住宅と比較すると特大だが、ドイツでは小さめ)の場合、光熱費込み700ユーロくらいで入居ができる。高齢世帯にとっても十分に手が届く金額だ。

風車のある共用棟にはカフェやイベントスペースがあり、結婚式などもできる。

ここは2つのコンセプトに基づいて運営されている。

コンセプト①「人と場所が結びつく」

郊外の空き地に施設を建てるのではなく、くらしはその地域の文化や伝統とともにあるべき、という考え方。

コンセプト②「多世代で暮らす」

齢者だけを隔離するのではなく、多世代の自然な交流があること。デイサービスだけではなく、PT診療所や0~3歳の子どもを預かる保育園を併設し、地域住民との接点ができるようにしている。

ケアが必要な場合は、訪問サービスを使う。介護事業者は入居者が自由に選択する。サ高住に近い印象だが、施設は独自のサービスを提供していない。24時間の見守りサービスもあるが、こちらも外部事業者が提供。財団は入居者間の交流、そして地域の人たちとの交流などに関わる。

入居資格は60歳以上であること。所得制限はない。月払いだけではなく、生涯利用権を買うこともできる。早く死亡した場合には遺族に一部返金があるが、長生きしても追加料金が求められることはない。自宅を処分し、利用権を購入するという人も多いという。このあたりはサ高住というよりは特定施設に近い。

認知症の人の家族が共同で立ち上げた認知症グループホームを中心とする

WOGEWOGEは8人が暮らす認知症グループホームからスタートした。

2003年に認知症の人の家族や友人が共同で立ち上げたが、小規模なケアを継続するのは経営的に難しかったとのこと。現在は財団の支援によって運営されている。

教会と教会が運営する子供の施設に隣接し、60歳以上の高齢者が入居できる住宅が併設されている。

WOGEはタウンハウスの2階部分を横につないだ形になっている。

中央にリビング・ダイニング・キッチン、その両側に廊下と8の居室が配置されている。

居室はいずれも介護施設とは思えない居心地のよさ。部屋にはなじみの家具や家族の写真が飾られ、バルコニーには花やハーブの鉢が置かれている。

訪問時は、ちょうどティータイム。8人の入居者はテーブルを囲み、コーヒーとパイを楽しんでいた。

日本でいえば平均要介護度は4くらいか。

自力で動くことができない人は2人、小刻みな歩行で室内を散歩し続ける人が1人、言語的コミュニケーションが難しそうな人が半数以上を占める。

2人の若いケアスタッフが食事の介助などをしていた。二人ともとてもカジュアルなスタイルで、にこやかに入居者に関わっている。

ここでは伝統的に、家族による主体的運営が特徴。

家族(友人を含む)は月に1度集まり、ホームの運営方針やケアの内容について話し合う。

空室が出た時は、次の候補者を関係者の投票で選ぶ。

最適な環境を保つために5つの”Golden Rules”があり(挨拶をしよう、お互いに尊重しよう、日常のリズムを尊重しよう、など)入居時や見学者はこれに従う。

専門的な医療・ケア、生活支援(食事・清掃・洗濯など)は外部のサービスを利用しており、自分たちで選択する。

そのコストも含め予算を決め、各家庭で負担する。一部、介護保険の給付、グループホームとしての補助があるが、家賃を含めると全部で1か月2500ユーロくらいになる。それ以外は予算が足りない場合には州の措置で補助があるという。

多くの人はここで人生を終える。

人生の最終段階の医療やケアの選択は、多くの場合、その時点では本人にはできない。しかし、家族に意思決定者としての権利は認められていない。したがって、多くの場合、認知症と診断された時点で方針を決めるか、代理意思決定者を決め、法的拘束力のある文書で登録しておく。

困難な状況に直面した時は、医師やその他の専門職も含め、倫理コンサルテーションを行う。緩和ケアの提供、ホスピスへの移行など、方針をみんなで考える。

日頃の健康管理を担うGP、脳神経内科・精神科領域の専門医、歯科医が定期的に訪問し、日々の健康管理を担うことができる。

■2つの複合施設を見て感じたこと

① 高齢者住宅としての質は、日本のものとはかなり異なる。効率的なケアを提供するというよりも、よりよい「すまい」を提供するという方向性が明確だ。

② 多世代の交流が自然に生じるように意識されている。特に子どもと子育て世代との接点、健常な高齢者との接点が意識されている。その中で役割が生じることも。

③ ケアの質を担保するための哲学と基本ルールが徹底されている。「人間を見る」、「人間として関わる」。お互いのリスペクト、パートナーとしての関係性。財団ではケアの質の均てん化のために効果的な学びのプログラムを提供している。

(この詳細は後述)続く・・・

いいね!をシェア