佐々木理事 2022年11月1日 Facebook記事より
I love you.
この英文を目にすることは多いが、日本で「愛してる」を口にすることに、どことなく座り心地の悪さを感じる人は少なくないと思う。
この一文を、二葉亭四迷は「死んでもいい」、夏目漱石は「月がきれいですね」と訳したという。
その真偽はわからないが、少なくとも”Love”に対する日本語が、それまで日本にはなかった、ということでもある。
伸彦先生にそんなことを教えてもらって、ちょっと調べてみた。
もともと「愛」という字は「人がゆっくり歩きながら後ろを振り返ろうとする心情」を表していると。
これが”Love”に対する日本語として充てられたのだ。”Love”に対する日本語がなかったということは、日本には”Love”という感情を切り出して表現するという文化がなかったということか。
「愛してる」への違和感の正体が少しわかったような気がする。
まずは、伸彦先生からの学びのごく一部を共有したい。
Loveのみならず、明治以後、多くの英語が日本に入ってきた。Society=社会、Justice=正義、Nature=自然・・・これらの対訳は、実は日本人が漢語を工夫して作った概念的な言葉だ。
しかし、最近の英語は、無理に日本語訳せずにそのままカタカナで使う。
たとえば”Frailty”。脆弱性と直訳されるが、この日本語ではこの英単語が意味するところを最適に表現できない。だからフレイルと表現する。
もう1つ。”Narrative”という言葉がある。
この言葉を”Narrative Based Medicine(ものがたりに基づく医療)”を通じて知った医療者が多いと思う。
「ものがたり」と訳されるが、しかし、実際にはその意味するところはかなり広い。
「ものがたり」という言葉に対し、多くの日本人は”Story”という英語を思い浮かべる。
「ものがたりに基づく医療」を、本人の”Story”に基づく医療、と理解している人が多いのではないだろうか。しかし、StoryとNarrativeは違う。
Storyの語源はHistoria=歴史。起承転結のある1つのまとまったもの、変わらないもの。
一方、Narrativeは語り手と利き手による双方向性のもの。
意味づけられたもの(静的)であるとともに、事柄と事柄を結び付けて意味づけする行為(動的)でもある。私たちは、いろいろなことを意味づけて「ものがたり」を繰り返し、それを蓄積して生きている。そこにその人なりの「やりかた」や「きまり」が生じる。確固たる「きまり」ができあがれば、それが人生観や価値観となる。
医療において重要なことは、まず相手の「きまり」を知ること。
ゲームでいえば、ルールブックを読むのではなく、一緒にゲームをして楽しむ。
同じ時間を過ごすと自然と「きまり」が見えてくる。
相手の「きまり」を、良い悪いに関わらず知ることが大切。
佐藤伸彦先生は、当て字のような単語を使うことなく、ACPの核心をご自分の言葉でわかりやすく表現される。
日々患者さんに真摯に向き合い、自分の関わりの意味を考え続けることで初めてできることなのだと思う。
医療者としての「核」とは何なのか。
暴力的な意思決定支援が患者を不幸にしている状況の中で、在宅療養支援診療所のACPガイドラインの義務化が行われた。
厚労省のACP研修事業に関わる中での参加者の反応も含め、もやもやしたものがあったが、改めて「ものがたり」の重要性を認識できた。
大切なのは「話し合って」「決める」ことではなく、あくまで「対話を重ねて」「知る」ことなのだ。
そして、そのためにも、1つ1つの言葉を、その意味も含めて大切に使いこなしていきたいと思った。
3年ぶりのものがたり合宿。全国から70人以上が集まった。社会課題の解決にそれぞれのアプローチで取り組む仲間たちと、それぞれのNarrativeを共有し、そこから新たなNarrativeが生まれる。
僕自身、毎回この場所で、新しいつながりと、たくさんの気づき、そして明日へのモチベーションをもらっている。今回も素晴らしい出会いがあり、いくつかの道が開けた。
来年もまたたくさんの人が参加してくれるとうれしい。そして、今回、ようやく「ものがたりの街」を訪れることができた。信彦先生はじめ、ものがたりのみんなとの久しぶりの再会。
うれしかった、というか、なんだかとてもほっとした。自分自身の「ものがたり」も、いろんな人たちとのかかわりの中で紡がれている。そんなことを改めて認識した2日間だった。ものがたり企画、ものがたりの旅、そしてものがたりの街の皆様、本当にありがとうございました。