要介護高齢者は、入院すると身体機能・認知機能が低下する。

佐々木理事 2022年11月28日 Facebook記事より

要介護高齢者は、入院すると身体機能・認知機能が低下する。

高齢者は10日間の入院で7年分の老化に相当する筋肉を失う。

また、認知症の人の場合、ぼぼ必発ともいえる入院中のせん妄は、その人の認知機能をMMSEで平均5点(30点満点)低下させる。

これを入院関連機能障害という。

高齢者にとっては入院そのものがリスクなのだ。

在宅医療の「医療としての役割」は、高齢者の入院への依存を減らすこと。

これにより、本人のQOLを守ること、そして社会保障財源・医療資源の適性利用化を促進することにあると僕は考えている。そのために重要なことは2つある。

1つは、訪問診療(医学管理)を通じて「急変」を減らすこと。

もう1つは、急変したとしてもすぐに救急車⇒入院ではなく、まずは在宅医療できちんと対応し、状況に応じて自宅や施設できちんと対応できるよう支援すること。

なるべく急変しないように、できるだけ入院しなくて済むように支援していく。

その結果、自宅や施設で最期まで生活ができれば、自ずとそこから旅立つことができる。看取りというのは「目的」ではなく、あくまで最適な支援ができた「結果」の1つなのだ。

もちろん、入院治療がその時点でのその人にとっての最適な選択になることもある。そんな時に重要なのが次の4点。

【1】最適なタイミングで入院できること例えば心不全など、在宅で粘るより早く入院につないだほうが、トータルの入院日数は少なく、患者の身体的負担も少なく済むことがある

 もしきちんと治療をしてほしい、という患者意向があるならば、どこまで在宅でできるのかを見極めたうえで、適切なタイミングで入院につなぐ。

【2】入院中の身体機能・認知機能の低下を最小化すること栄養ケアは改善の余地が大きい。

 NSTが積極的に関わり、口腔機能を最適な環境で評価し、早期に経口摂取を開始する。

 開始できない場合には、いつまでも維持輸液で放置せず、入院治療のゴールに応じた栄養治療を検討する。せん妄の発症リスクをできるだけ軽減する。病状の悪化による身体的ストレスはやむを得ないが、環境変化のストレスは緩和しうる。

 低栄養や脱水、視聴覚障害(補聴器・メガネ・入歯を外すなど)もリスクになる。環境調整、治療の適正化、看護の関わりでせん妄の発症率は下がることが知られている。

【3】できるだけ早期に退院すること1日入院したら1年老化する。

 入院側・在宅側の双方で、そんな緊張感をもって関わることが重要。特に多疾患の高齢者は、どこに退院のゴールを置けばいいのか、病院側では判断できないことも多い。

 入院時に「何のための入院なのか」「どこまで改善したら退院でよいのか」を明らかにする。診療情報提供書にしっかりと明記するとともに、可能であれば入院早期に「入院時カンファランス」を開催するのが望ましい。

 また、治療を病院で完結させる必要はない。ある程度まで改善すれば、在宅で引き継げばいい。そのために在宅医や訪問看護師がいるのだ。

【4】退院直後に機能回復のための支援を厚くすること退院直後は訪問看護やリハビリを手厚くできる。

 ぜひ、薬剤師・管理栄養士も早期に入れてほしい。処方の適正化と、栄養評価・食事の支援についても一緒に考えてほしい。

 口腔環境の悪化・口腔機能の低下が目立つ場合には、やはり早めに歯科チームを入れる。退院直後はいろいろ大変。いろんな人に出入りしてほしくない、という方もいるが、ここでがっちりやるのとやらないのでは、2週間以降の療養生活が全く違うものになる。

 ケアマネさんは、退院時の状況に合わせた固定ケアプランを考える前に、2週間後・1か月後はどこまで元気になっているかを多職種と一緒に予測した上で、柔軟なプランを考えてほしい。

■病院と地域の連携のために特に上記の【1】【3】【4】については、病院と地域の連携がとても重要になる。地域の中核病院が1~2カ所しかない、という地域であれば、顔の見える関係構築も容易かもしれないが、大都市部では、多数の事業所が多数の病院と関わることになる。個々に顔の見える関係を創っていくことは難しい。

だからこそ「規範的統合」が重要になる。患者・家族も含め、本人にとって最善な選択は何なのかを一緒に考え続けよう。そんな基本的態度が共有でき、個々の専門職がそれぞれの持ち場でしっかりと機能を発揮できれば、病院と在宅の連携は自ずとスムースになっていくのではないだろうか。

しかし、救急搬送・入院の中には、必ずしも本人にとって「最善の選択」ではないものが多く含まれる。このようなケースをいかに減らすことができるのか。これも大きな課題の1つだ。

そのために行われてきたのが「事前指示」の準備と確認だ。

何かあったらどうするのか、あらかじめ書面に記載しておく。救急隊や病院は、その書面に従って対応する。

医療を提供する側にも、される側にとっても安心かもしれない。

しかし、事前指示書に記載された内容が、常にその人にとって最善な選択であるとは限らない。

病状経過の見通しを的確に理解できていない状況で、想定しうるすべての変化に対し事前指示を出しておくことはできない。

実際には、どんな選択肢があるのか、把握できていない人は少なくない。さらに医療技術は日進月歩だ。去年まではあきらめるしかなかった病気に、新しい選択肢が生まれることもある。

そんな状況で「自分で考えて決める」ということには、当然、限界がある。

また、状況が変化すれば、気持ちも変化する。決めておけ、と言われても、その時になってみないとわからない、いまは決めたくない、という人も少なくない。

自分の気持ちをきちんと事前指示書に残せた、と安心できる人もいるかもしれないが、とりあえずは書けと言われて書いたものの、正直なところ十分納得できる選択ではない・・という人もいると思う。

特に医療者がリードして、その場で方針を決めて署名・捺印させるという形の意思決定には、患者や家族にとっては、安心感よりも不安感のほうが大きいことが多い。

医療現場には「DNAR取りました」という発言に示されるように、自分たちの責任範囲を限定するための1つの手段として理解されているきらいもある。どうすれば、納得できる選択が支援できるのか。

在宅医療は、日頃から患者や家族と対話を重ねながら、本人の価値観や優先順位・判断基準を確認しておくことが重要になる。しかし、事前に決めておけないこともたくさんある。

「とりあえず決めておけ」ではなく、ゆらぐ気持ちに寄り添いながら、場合によっては、その「ゆらぎ」を含めて、入院に引き継いでいくことになる。その時は、病院に対話を引き継ぐのではなく、在宅で関わってきた専門職が対話のプロセスに関わるなどの配慮も必要かもしれない。

ーーーー昨日の午後は、日本医大で開催された日本病院前医救急診療医学会のシンポジウムにパネリストとして参加させていただいた。病院医、在宅医のみならず、救急と在宅の二足のわらじを履く医師たちからの発表には学ぶことが多かった。

ただ、質疑などを通じて、まだ事前指示とACPが混同されていたり、患者の安心感よりも現場の安心感にフォーカスした議論があったり、まだまだ意思決定支援においては、課題も大きいことを感じた。

病院と在宅の連携。規範的統合=目的の共有、個々の能力の最大化、最適な役割分担、そして患者との対話のプロセスの連続性の担保。簡単なようで難しい。そんなことを再認識させられたシンポジウムだった。でも、少しずつでも前に進めていくしかない。写真は学会でいただいたノベルティグッズ。日本医大のドクターカーのミニカー。かわいいです(^^♪

いいね!をシェア