佐々木理事 2022年12月9日 Facebook記事より
どうなる「かかりつけ医制度」~「全世代型社会保障」の目玉政策で日本はどう変わるか。武藤先生や元厚労事務次官の吉田さんたちとこんなテーマでディスカッションさせていただいた。
日本でもようやく議論の俎上に上がるようになった「かかりつけ医」。その定義は家庭医ともGPとも少し違うが、それでも、求められている機能はいわゆる「家庭医」だ。
日本以外の全ての先進国が家庭医を制度として取り入れているのはなぜなのか。そこには合理的理由があるはずだ。そして、もし日本でも家庭医を制度化するならば、それは日本の地域医療の課題を解決するためのものであるべきだ。
僕ら在宅医は、その人の生活背景や家族も含め、包括的な関わりを24時間体制で提供している家庭医だ。その立場で僕が感じている地域医療の課題は5つある。
1.身近に信頼・相談できる医師がいない。
医学モデルの執行者として優れた医師は多いが、その人の思考特性、生活背景、生命予後、人生観などを加味した関わり、生活モデルを理解し、実践できる医師は少ない。
2.病気にならないと医療にアクセスできない。
健康保険は病気でなければ使えない。保険診療以外の仕事をしている医師は少ない。健診とワクチンを除けば、医師と話ができる機会は限られる。
3.必ずしも最適な医療が提供されない。
同じ疾患でも、医師の専門性により治療内容にはバイアスがかかる。また、出来高の診療報酬により、過度の検査や治療が行われる傾向がある。
4.医療と公衆衛生が連携できていない。
医療は単独で提供され、保健所や救急隊などと合理的な連携ができていないことがコロナ禍でも浮き彫りになった。
5.診療の質が可視化できていない。
プロフェッショナルオートノミーの名の下に診療内容はブラックボックス化され、レセプトでその一端を窺い知ることしかできない。同じ健康保険制度、同じ報酬体系の下で診療を受けているはずなのに、質には大きなばらつきがある。
これらは、フリーアクセス、出来高診療報酬という日本の国民皆保険制度の根っこのところを触らないといけないかもしれない。
加えて従来の健康保険でカバーされていない領域、予防や公衆衛生との連携を含めたプライマリヘルスケアの一部を担うことに対する新たな報酬制度を考慮する必要があるかもしれない。
また、電子カルテシステムのデータベースを統合し、診療の質が可視化できるようにする必要もある。診療所の電子カルテ化さえ進まない状況下では政策的決断も必要になるかもしれない。
すごく大きな変化で、地域医療機関の多くは、とても受け入れられないと拒絶反応を示すのだろう。
しかし、このままの医療提供体制であと5年、10年、20年、地域のニーズに応え続けることができないのは明らかだ。
未来の世代に、よりよい社会基盤を残すためにも、彼らに多額の負債を背負わせてきた僕らの世代が、身を切る覚悟で改革に踏み切るべきではないかと思う。
そして、その新しい医療提供体制は、実は医師にとっても、診療外業務から開放され、より効果的に医療を提供し、診療の質を向上し続けるためのプラットフォームになるのではないか。
そして、そこで医師たちは、地域で新しい役割とやりがいを見出すことができるのではないか。
レセプトの点数に一喜一憂するのではなく、地域で然るべき責任を果たすことで相応の評価が得られる。
そんな新しい医療を夢想してもよいのではないか。
慎重に言葉を選ぶ吉田さんのお話を聞きながら、せっかちな僕は、そんなことを思ったのだった。