佐々木理事 2023年 7月10日 Facebook記事より
「拘束? してますよ」
心は痛まないのか。
「はあ? 治療の一環で拘束しているわけで、それを全然現場を知らないきみが土足で入ってきて、心痛みませんかって何なの? 失礼だよ」
取材で心を痛める精神科医に多く出会ってきた。
「ぼくはそんなふうには考えない。適切に法律で決まっている。患者さんの安全を考えて拘束して、なぜ心が痛むの? しないことで、もっと変な結果が出る方がおっかないじゃないか」
当事者は拘束しないでほしいと強く望んでいる。
「できないね。拘束して治療のプログラムに乗せるのが今の法律上の建前だ」
ーーーー
東京新聞で報道された日本精神科病院協会の山崎学会長とのインタビュー。衝撃を受けた人も多いと思う。https://www.tokyo-np.co.jp/article/261541
日本人は精神病が多いというわけではないはずだが、世界の精神科病床の実に20%が日本に集中している。
そして日本の精神科病院には年単位の入院患者が多い。3分の1が1年以上、うち半数が5年以上の長期入院患者だ。
最近は徐々に短縮しているが、それでも平均在院日数は275日。これはフランスの50倍、ドイツの12倍、イギリスの7倍。
日本の精神科医療はこのままでいいのか。そんな議論は以前からある。
しかしこれは精神科病院側だけの問題ではない。山崎会長が言うように、精神障害の人を地域で見守るためのリソースは絶対的に少ない。そして、多くの人は精神障害の人に対して偏見を持ち、関わりを持ちたくないと思っている。
精神障害の人をコミュニティから隔離したい健常者たち。そして精神障害の人を隔離することで「社会のニーズ」に応えてきた精神病院。当事者の思いを置き去りにしてきたという点では、みんなが共犯者だ。
そして、これは精神障害だけの話ではない。本人の意思に反して地域から隔離されているという点では、身体障害も、知的障害も、そして認知症の人も、かつてのハンセン病などもみんな同じ。
どんな社会を目指すのか。
僕は誰かの幸せのために、誰かの人生を犠牲にするような社会であってほしくはないと思う。
入院の少ない欧州のような支援体制を実現には、専門人材の確保も必要だし、なにより一般市民の理解も必要になる。薬に依存した医療の在り方も考えないといけないかもしれない(内科医でも普通に向精神薬が処方できる状況はあまり健全ではないと思う)。そして何より財源も必要だ。
重要なのは、この問題に対して見て見ぬふりをしないことだと思う。山崎会長とのインタビューは次のように続く。
ーーーーーー
日本も今後は病院ではなく、地域で見守る態勢に本腰を入れるべきだ。
「地域で見守る? 誰が見てんの? あんた、できんの? きれいごと言って、結局全部他人事なんだよ」
確かに社会資源が少ない。
「障害年金たった年間70万円で、どうやって地域で生活させんの? できないよ。働けないんだぜ」
社会構造も変えないと。
「変わんねえよ! 医者になって60年、社会は何も変わんねえんだよ。みんな精神障害者に偏見もって、しょせんキチガイだって思ってんだよ、内心は」
精神科病院に入院し続けることは幸せなのか。
「そう思うよ、ぼくは。地域で、アパートで一人暮らししながら、明日のことも分からず生活するのと、病院の4人部屋で皆でご飯食べるのと、どっちがいいかって言ったら、ぼくは病院を選択するよ」
30年入院してても?
「出してどうすんの? 地域でマンツーマンで診れるならいいが財源も人もいない。支えているのはいつもボランティアじゃねえか」
ーーーーーー
しかし、僕はこの現状はこれからも不変のもの、不変であるべきものであるとは思わない。
一人ひとりが障害に対する、そして障害とともに生きる人に対する考え方、関わり方を変えること。
障害とともに生きる人を地域から隔離するのではなく、ともに暮らすための社会資源に投資をすること。
年間1兆1500億円が精神科の入院医療に投入されている。
この一部をコミュニティで支える仕組みづくり、人材確保に振り向けるだけでも、世の中は大きく変わるんじゃないか。
そして、それは私たち全員にとって安心できる社会なんじゃないか。
あまりにも大きすぎるテーマだが、取り組まなければならないところから着実に取り組んでいきたいと、仲間たちが動き始めている。
患者さんが入院継続を望まない精神科病院からの退院を支援したい/一部の問題等のある精神科病院からの退院支援プロジェクトhttps://readyfor.jp/projects/taiinshien2023ぜひ、少しでも関心をもってもらいたいと思う。