佐々木理事 登壇 2022年7月18日 Facebook記事より
在宅医療は「支える医療」と表現されることが多い。
しかし、在宅医に「その人の生活を支えること」などできない。
もし、その人の生活を支えるために医師にできることがあるならば、それが
●その人の人生を管理・支配しないこと
●その人の生活を支えようとする地域の多職種を委縮させないこと
この2つだけだと思う。
在宅医療が成り立つためには、その人が住み慣れた地域・自宅でくらしが継続できているという前提条件がある。
しかし、くらし>医療という優先順位は、多職種<医師という力関係のためにしばしば逆転する。医療のためにくらしが破綻する、医療のために人生の目標が奪われる、あっていいはずはないこのような状況を経験することは少なくない。
在宅医療に関わる医師には、その人の生活を支えようとする専門職に対するリスペクト、そして何よりその人の生活・人生に対するリスペクトが必要だ。
日本在宅ケア・サミット2022。
「いのち・くらし・生きがいを支える」をテーマに、日本在宅ケアアライアンスを構成する19団体が集まった。
医師から発言すると多職種が黙ってしまう。これはサービス担当者会議などでもよく経験する現象だ。武田俊彦さんを座長に行われたシンポジウムは、敢えてパネリストから医師が外された。
その意図に応えるように、多職種のプレゼンテーションはとても素晴らしいものだった。それぞれの専門職が、主体として患者の生命・生活・人生に真摯に向き合い、互いのものがたりを紡ぎ合う様子が目に浮かんだ。
僕は草場鉄周先生とともに医師の立場で隣席させていただいた。
「多職種に対して懐深いコメントを」と座長の武田俊彦さんからと特別発言を求められ、「多職種がそれぞれの専門性を発揮しつつ、地域で主体的に活躍できるならば、在宅ケアチームの中に、もはや医師は必要ないのかもしれない」、日頃から思っているそんなことを言葉にしてみた。
「多職種に対し懐深い医師」として認識されているのは、在宅医としてはとてもありがたい評価だ。しかし、実際は、懐深い多職種にその存在をかろうじて許容されている、というのが多職種連携の実情なのだろうと思う。
もちろん、急性期の対応や侵襲の高い処置、高度な緩和医療が必要な場合には、医師の存在がキーになることもあるかもしれない。しかし、在宅ケアの現場における「医療ニーズ」の多くは、医師でなくても担いうる。というよりも、その領域の本来の専門職が担ったほうが、ケアの質が高い、という状況も十分にありうる。
医師の働き方改革を受けて、多職種へのタスクシフト・タスクシェアが議論されているが、そもそも多職種の領空にまで医師が支配権を延ばした結果が現在の状況だ。少なくとも在宅ケアのフィールドにおいては、それぞれの専門領域を「大政奉還」すればいいだけの話ではなのかもしれない。
そんなことを思った。
いずれにしても、これからのケアの在り方を考えさせられる1日となった。
在宅ケアは何のためにあるのか。
それを支えるために何が必要か。
視界は徐々にはっきりしてきている。
2022年7月18日 佐々木淳理事 Facebook記事より